転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
164 お金持ちの義務と孤児院への寄付
「ルディーン君の口座に現在支払われているお金は以上ですが、これについて一つお願いがあります」
「お願い?」
あまりの金額の大きさに俺が戸惑っていると、ギルドマスターがこんな事を言い出した。
しかし、お願いとはなんだ? 金についてのお願いと言う事だが、まさか錬金術ギルドが困窮しているから少し貸して欲しいとか?
いやいや、ギルドマスターの身なりからしてそんな雰囲気ではないし、なにより隣にいる炉流布と言う爺さんはルディーンが言うにはかなりの金持ちだと言う話だ。
ならばその様な事は無いだろう。
「はい。イーノックカウではある一定以上の収入がある方々には、孤児院への寄付をお願いしているのです」
「寄付ですか?」
俺がそんな事を考えていると、ギルドマスターがそのお願いの内容を教えてくれた。
彼女が言うには、このイーノックカウに住む貴族や大商会の商会長など、ある一定以上の収入がある者たちにはそれ相応の義務が課せられているらしいんだ。
例えば大きな屋敷に住んでいる場合はそれに伴う税金が発生するし、このクラスの都市だと井戸は地下水ではなく川から地下道を通って供給されているので、敷地内に井戸がある場合はその数によって水の使用料が支払われたりするらしい。
その他にも一定の大きさの家だと家人を雇わなければいけないとか、いくら以上の売り上げがある商会では何人以上の人を雇い入れなければいけないなど、雇用を作り出すための法があるらしい。
そしてギルドマスターの寄ると、そんな法や義務の中に孤児院への寄付と言うものがあるそうで、多額の定期収入が確定しているルディーンにもその一部をお願いしたいと言う話らしいんだ。
「ルディーン君の場合、このイーノックカウにすんでいるわけではありませんから本来その義務は無いのですが、金額が金額と言う事でなんとかお願いできないかと街の行政の方から連絡が来ているのです」
確かにルディーンはグランリルの村に住んでいるんだから、イーノックカウの法には縛られない。
何せうちの村は近くに強い魔力溜りを持つ森があるおかげで、帝国府直轄になっているからな。
まぁだからこそのお願いなんだろうが、それでも疑問は残る。
こんな大きな都市でも孤児院に支払う金が足りていないと言う事なんだろうか?
そう思った俺は素直にギルドマスターの聞いてみたところ、こんな答えが帰って来たんだ。
「確かに各孤児院には都市からの補助金が出ております。ですがこれだけの都市ですと色々な所にお金が掛かるために、その補助金は孤児院の規模に対して考えると微々たる物なんですよ」
いくら大都市とは言え、税金には限るがある。
そしてその税金からこの街を守る兵士や役所の職員などの給料は支払われているし、その他にも道や橋、それに都市を囲む壁などが傷んできた場合はその補修などにも多額の金が必要となるそうで、孤児たちがいくら多いと言ってもそちらに回せる金はそれ程多く無いそうなんだ。
「ですから、一度ルディーン君に寄付を出してもらえるかどうか訊ねて……」
「いいですよ。幾らくらいいるんですか?」
まぁそう言う事ならルディーンも納得するだろうしと、俺はギルドマスターにそう返事をした。
ところがその返事にあわてたのはギルドマスターの方だ。
「はっ? いえ、これはルディーン君のお金ですから一度村に帰り、本人の意志を確認していただかないと」
「いや、大丈夫ですよ。ルディーンがこの申し出を断るはずが無いですから」
ルディーンの金を管理してるのは確かに俺たち親だが、その権利はルディーンにある。
だからこそギルドマスターはルディーンの意見を聞いてからと考えているんだろうけど、そもそもそんな話を聞いてもなお、金を出し渋るような子に育ててはいないつもりだ。
それにルディーンは俺から見てあまり物事に執着していないような気がするんだよなぁ。
でなければ新しく考え付いた物をそうやすやすと人に教えたりするはずが無いし、それにあれくらいの子はちょっとしたお手伝いはしても村の仕事などをやらされる事は無い。
なのに魔道具作りやパンケーキ作りなどを村の人たちから頼まれても、ルディーンは殆ど文句を言わずにやっているんだ。
そんないい子に育っているルディーンが孤児院の子達が困っていると聞けば、頼まれなくてもお金を寄付すると言い出すに決まってる。
まぁそれでも一応、帰ったら寄付する事にしたぞとは伝えるがな。
「しかし……」
「まぁまぁ、帰ったら話はして置きますから。で、どれくらい寄付すればいいんですか?」
「えっと、イーノックカウには現在8つの孤児院があります。そこにそれぞれ一月に金貨10枚ずつ、合計で80万セントほど寄付をいただけたらありがたいと街の行政からは頼まれております」
80万セント? おいおい、想像していた金額に比べるとかなり少ないじゃないか。
わざわざ村に帰ってルディーンから返事を貰ってきてくれって言うくらいだから、月に500万セントくらい寄付して欲しいって言い出すのかと思ったぞ。
「そんなに少なくていいんですか?」
「少ないだなんて。これはこの街で寄付を出して頂いている中でも一番多く出して頂けている方たちと同額なんですよ」
どうやら俺はルディーンに入ってくる月々の金額を聞いて少し勘違いをしていたらしい。
さっき入るお金の説明をギルドマスターにしてもらった通り、本来ルディーンのような立場の人たちは多くの人を雇っている為にその給料などを支払っているんだ。
寄付する人たちはその支出とは別にその金を捻出しているんだから、金持ちと言えど月々金貨80枚と言うのはかなりの出費らしい。
「ルディーン君の場合、商会を経営している訳ではありませんし、大きな屋敷を構えているわけでもありません。そして当然貴族のように家臣がいるわけでもありませんからこれだけの寄付をお願いしても大丈夫だろうと考えてお話しているだけで、普通は10万セントも寄付して頂けないのですよ」
「なるほど。言われてみればその通りですね」
「ですが孤児院には常に多くの子供たちがいるので、皆さん毎月寄付をしてくださっているんですよ」
ギルドマスター曰く、イーノックカウの孤児院にはそれぞれ150〜200人ほどの孤児がいるそうだ。
と言うのも、この街の近くにある森はグランリルに比べて弱い魔物しかいないが、それでも毎年何人かの冒険者が行方不明になってその子供が孤児になったり、旅商人が道中で魔物や野盗、狼のような野生生物の襲撃によって命を落とす事があるかららしい。
国によってはそんな子供たちがストリートチルドレンになってしまうらしいのだが、この国ではそんな子供たちが犯罪者予備軍にならないよう全て孤児院に収容しているおかげで常にそれくらいの孤児がいると言うわけだ。
「なるほど。ならばやはり80万セントと言うのは少ないんじゃ無いですか?」
「そう言って頂けるのはありがたいのですが、これはあくまでルディーン君のお金ですから、彼の承諾なしではこれ以上の金額を寄付していただく訳には……」
そうだなぁ。
この80万セントと言う金額がこの街の金持ちが払っている上限のtなると、幾ら親の俺がいいと言っても受け取るほうは素直にありがとうとは言い辛いだろう。
でも、ルディーンならまず間違いなくもっと払うって言うんだよなぁ。
「それにですね、幾ら多額の寄付を頂いても、どなたから幾らの寄付を頂いたと言うのは公表していないんですよ」
どうやら寄付はあくまで善意でと言う事で、多く支払ったからと言って誰かから感謝されるというわけでは無いらしい。
と言うのも金額を発表してしまうと、一部の人たちに迷惑がかかってしまうかららしいんだ。
「全ての貴族や商会が常に儲かっている訳ではありません。ですから、場合によっては寄付の義務を負う収入を割る時があってそれを公表されてしまうとその商会が傾いていると言う噂が立ってしまう恐れがあるのです。ですから、あくまで収入が多い方々の善意で孤児院の寄付を頂いているので誰から幾らもらっていると言うのは公表しない規則になっているのです」
「なるほど。と言う事はルディーンが他の人たちより多く出しても、誰からも感謝をされないと言うんですね」
「残念ながらそうなってしまいます」
一応過去何年かで寄付をした組織や人の名前は公表されるらしいから完全に自己満足だけで寄付を支払えって言ってる訳じゃないけど、多く払ってもメリットは無いって事か。
ただなぁ。
「解りました。じゃあルディーンにはそう伝えて、そのうえでもっと払うよう話して許可を取ってきますよ」
「えっ? でも」
「大丈夫です。うちの村では大金を持っていても意味が無いですからね。それにルディーンも孤児院の話を聞けば助けてあげてって言うはずです。あの子は優しいですから」
「……ありがとうございます。ですが、無理強いはなさらないで下さいね」
「はい。そこはルディーンの金ですからね。本人がいやだと言ったら無理にとは言いませんよ」
ギルドマスターにはそう言いながらも、俺はある確信を持っている。
流石に月々の収入を話すつもりは無いけど、ある程度の大金が入ってるんだぞってルディーンに伝えれば、俺の自慢の息子なら絶対にできるだけの事はしてあげてねと言い出すってな。
ハンスお父さん、ちょっと親ばかっぽいw
まぁ、実際にルディーン君はそう言う子なんですけどね